ベルリン在住フリーランス高田ゲンキ氏に聞く、「海外で働く」と「日本との教育の違い」に期待すること

クラウドファンディングでヨーロッパを旅中のるってぃです!

突然ですが、Think ITで連載中のコミックエッセイ「ライフハックで行こう!」をご存知ですか?

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ベルリン在住のイラストレーター高田ゲンキさんが自身の体験談を元に発信している漫画なのですか、フリーランスをやってる身としてめちゃくちゃ共感できる&面白いのです。

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特に最近公開された「不払いクライアントに気をつけろ!」は現在進行中で不払いされてるので超共感

「ライフハックで行こう!」のいちファンとして、今回ベルリンを訪問するにあたってゲンキさんに取材依頼をしたわけですが、お忙しい中快く引き受けてくれました。優しい!

ベルリン在住5年・日本から夫婦で移住した日本人フリーランスのリアルや、ベルリンという街の魅力、日本との違いやこれからのことなどを詳しく聞いてきたので、ぜひお読みください!

ゲンキさんがフリーランスとして独立〜ベルリンに移住するまで

——わざわざお忙しい中お時間いただきありがとうございます!ゲンキさんがフリーランスとして独立されたのはいつ頃でしょうか?

ゲンキ:イラストレーターとして独立したのは2003年ですね。ベルリンに移住したのは2012年になります。漫画は小学生の頃から書いていて、就活は1秒もしたことないんです。当時、音楽で食っていく予定で音楽活動をしてました。

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——フリーランスの大先輩すぎる。ブログで「ベルリンに移住を決めた理由は特にない」と拝見したんですが本当ですか?

ゲンキ:実はベルリンに1ヶ月お試し移住で来たのが初ヨーロッパだったんですよ。来るまで特にベルリンに思い入れはありませんでした(笑)。それでベルリンが気に入って、そのままビザ取って、妻と移住…という流れです。

——お試し移住からのとんとん拍子ですね(笑)

ゲンキ:ベルリンに来る前は、神奈川から大阪に半年移住したこともありました。当時のクライアントが関東中心で、自分が大阪に離れたことで切られる可能性があったのですが、まあ切られてもいい覚悟で移住したんですけど。

そしたら原稿はPDF、打ち合わせはスカイプになって、「最初からそうしろや〜〜〜!」みたいな(笑)。それなら時差はあるけど海外に移住しようと思って。でもこういうことって、フリーランスだからできるんですよね。

ベルリンで働くことの問題は?海外でクライアントを見つけるために大切なこととは?

——日本とベルリンでフリーランスを経験して、大きく異なると思う部分や問題はなんですか?

ゲンキ:それが全く問題ないんですよね。僕のクライアントは日本の企業がほとんどなので、時差くらいですね。基本的にオンラインです。これからはこっちでもクライアントを見つけようと思ってます。

バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)にはゆかりがあって、絵を描いたことがあります。奥さん(同じフリーランスイラストレーター)はこっちでのマーケティングも上手く、BBCやアメリカンエクスプレスがクライアントでいたりしますね。

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——海外でクライアントを見つける際、壁になるのはやはり言語ですか?

ゲンキ:業種にもよりますけど、「イラスト」はそういう意味で強いですね。イラストだと他の業種ほど高いレベルの語学力は求められませんから。

——なるほど〜、最近ブログやっててヒシヒシ感じるのはやっぱり漫画コンテンツは”伝わりやすさ”という点において最強だな〜と。国境も越えますしね。

ゲンキ:でも、積極的に海外展開しようとしていた時意識してたのは「ローカライズ」。つまり自分のイラストを海外で受けるタッチや要素に上手く合わせていくことですね。奥さんが日本で書いてたイラストがそのままでも海外で受けるタッチだったので。やはり土地に合わせて持ってるものをローカライズしていくことは重要ですね。

——ヨーロッパでお会いする人に「フリーランスなんだから、こっちおいでよ」と言われるんですけど、どうしてもハードルを感じるんですよね。特に”フリーランス”という点でベルリンに移住して大変だったことはありますか?

ゲンキ:いろいろ心配してたけど、これも特にないんですよね。まあ、ドイツでフリーランスビザを取得するには「ドイツのクライアントが最低2社以上無いといけない」という要件があるので、それをクリアするために頑張ったりはしましたけど。でも、これもやりたくてやってることなので、苦労と思わなかったですね。

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——おお、「好きに勝るものなし」ですね。

ゲンキ:あるとすれば、「確定申告が複雑なこと」くらいですね(笑)

「ドイツ人は大人びている」 日本とドイツの教育の違いから生まれるもの

——話は一転するんですけど、ドイツの若い人と日本の若い人ではどのような点に違いを感じますか?

ゲンキ:その世代のドイツ人とそんなに絡みはないけど、会話する中で感じるのは「大人びてる・のびのびしてる」ですね。人によっては良し悪しは分かれるんですけど、ドイツの教育って10歳で人生の選択肢がほぼ決定するんですよ(※ 州や学校の種類によって異なる場合があります)。

ドイツの小学校は4年制(もしくは3年制)で、小学校卒業と同時にキャリアを決定します大きく分けると

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総合大学の入学資格である「アビトゥーア」を取得するための9年制のカリキュラム。アビトゥーアの成績は一生有効なので好きなタイミングで大学に入れるが、何度も受験はできず、アビトゥーアの成績によって入れる大学が決まってしまう一発本番。

中等実科学校&中等商科学校

6年制のカリキュラムで「専門上等学校」や「カレッジ」の進学を目指すコース。

基幹学校

大学進学を考えていない子は5年制の中学校へ進学し、職人や販売員を目指します。卒業後は実際に働き始める子が多い。

そして原則的に、これらの進路は優秀でない限り変更は効かないそうです。つまりドイツの子供は10歳にして、1度目の人生の決断を迫られます。

参考記事:日本とは全く違う!ドイツの教育制度とキャリア観

だからすごい大人びてますね。

十代のころから将来どうするか、そして社会がどうなっているのか考える意識がある。そして大人もその歳の子を一人前として扱います。日本の教育も素晴らしいんですよ。

ただ逆に、日本はチャンスをいつまでも先延ばしできることが問題でもあると思います。やっと社会に向き合い始めるのって、就活し始める時じゃないですか。そして大学で勉強した専門外の分野の会社に就職したり、働き出して3年で悩み始めたり…遅いんですよね。

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——間違いないですね。それがドイツだと、10歳からキャリアの選択を迫られる。何だか次元が違いますね。ちなみにそれに対して否定的な意見もありますが、ゲンキさんはどう思いますか?

ゲンキ:パッパラーのやつは結局先延ばしてもパッパラーのままですから(笑)。僕はドイツの子に共感する部分がありますね僕自身、小学校の時から漫画家になりたかったんですよ。なのに「なんでこんなことやらなきゃいけないんだ」と日本の教育に疑問を感じることがありました。みんな均等に同じ教育を受けさせられて。

日本ではなく「ベルリンでの子育て」に期待することとは?

——昨年お子さんが生まれたということで、ドイツで子育てを行なってくと思うんですけど、教育に関してどのような点で日本との違いを期待しますか?

ゲンキ:実はベルリンに移住した理由は子供のためでもあるんです。そのためにこっちで毎年税金・年金払ってる感じです。期待してることは2つ、「語学力」と「多様性」です。

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まず「語学力」ですが、やっぱり日本国内でそれを目指すと大変です。東大出てるのに英語ペラペラな人って多くはないじゃないですか。ヨーロッパだと3~4ヵ国語話せるのが当たり前なんです。そのために僕らも今ドイツ語を勉強中です。そして、ベルリンはマルチカルチャーだから、いろんな国籍・言語・宗教に囲まれて育って欲しいですね。日本も良い点いっぱいあるけど、「多様性」という点はないですから。

——日本に住んでると国籍や宗教について考える機会は少ないですからね。ゲンキさんが「多様性」にこだわる理由はなんですか?

ゲンキ:人に「絶対こうするべき!」とかはないけど、僕自身幼稚園から高校までいじめられてたんですよね。

——その漫画、拝見しました(こちらから読めます)。

ゲンキ:それは僕が異質で、日本の狭いコミュニティの中で外れていたから。ベルリンだと多様すぎて全然普通なんですよ。

——ここに来る途中、電車の中で歌う人や、スピーカーかけてクラブみたいにする学生達に出くわしましたよ(笑)

ゲンキ:たまに電車の一角で宴会やってる人達いますよ(笑)。日本は「みんなが監視役」みたいな息苦しさを感じますね。ベルリンはあまりそういうの感じませんね。個性を受け入れる多様性があります。

「全員で街や社会を作る」アーティストの街ベルリンを見て感じることとは?

——ベルリンが「クリエイターの集まる街」や「スタートアップの聖地」と呼ばれてますが、生活していてそれらを実感するシーンはありますか?

ゲンキ:僕がそういう集まりによく行くのもあるので、知り合いに起業家は多いですね。アーティストも生活していると普通に出会います。「絵辞めよ」と思うくらい壁の落書きが上手い人もいるし、逆にクソみたいなのもあるし(笑)、ストリートでもめっちゃ歌上手い人います。日本と全く違うのは、アーティストじゃない側のアーティストへの扱いですね。リスペクトがあるし、応援する姿勢が強いです。

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——うわ〜それめちゃくちゃ感じますね。こっちの人ってちゃんと「アート」に対してお金出しますよね。

ゲンキ:ベルリンで「イラストレーターやってる」と言うと「すげー!」とは言われるけど「で、クライアントはどこ?日本の企業?」なんて聞く奴いません。日本だとすぐに資本主義的なとこに繋げようとしますよね。「年収はいくら?」とか。アートは本来、資本主義的なものと切り離さないといけないんですよ。ベルリンは先進国の首都の中では圧倒的に物価が安いから色んな国からアーティストが集まります。そして、みんなで資本主義的にならないようにしようとする風潮がありますね。


——例えばどういった部分でその風潮を感じますか?

ゲンキ:日本人は新しい商業施設作られたらみんなそっち行くじゃないですか。流行りに乗せられてるみたいな。僕こっち来たばかりの時、ワーカホリック(仕事中毒)気味だったんですよ。その時に公園でガラクタ売ってるおっさんを見たんですけど、当時は「なんだこいつ」と思ったんです。けど、しばらく住んで「そうじゃないんだ」って気づきました。公園って誰にも使われなかったら潰されて商業施設になっちゃうじゃないですか。それを作らせないために「公園で遊ぼう」とか、アーティストじゃない側にも自覚がある。「みんなで街や社会を作ろう」という意識があるんですよ。

——うわ〜それ面白い…!「一緒に街や社会を作る」なんて考えた事もありませんでした。

ゲンキ:日本人は常に受け身。選挙にも行かないじゃないですか。「社会を一緒に作ろう」という考えが「アーティスト」だけでなく、「アーティストじゃない側」にもあることが、こっちに来て強く考えを変えられた部分ですね。

※ちなみに2013年のドイツの投票率は、18~20歳で64.2%、25-29歳で62.4%(日本は半分の32.58%)。どの年代においても投票率は60%以上を越え、若者の投票率は日本の2倍近く高い。

日本人はまず、フリーランスのようなマネジメント力をつけるべき?

——アーティストが多いベルリンの魅力が理解できました。日本人はもっと海外に出るべきですか?

ゲンキ:向き不向きや「やっぱり日本が好き」って人もいるので「すべき」とまでは思いませんが、ちょっとでも興味あるなら海外来るべきです。「会社が…」「彼女が…」くらいの理由の人は来た方が良いです。どちらかというと日本人は「海外に来るべき」というより、自分1人でマネジメントする働き方が全員に必要だと思います。

——「全員フリーランス的な働き方を体験しておいたほうが良い」ということですかね?

ゲンキ:はい。スキルを持ってて会社員やるのはOKだと思うんですよ、いつでも辞めれるから。何もスキルなくて会社だけに依存するの危険ですね。ほとんどの人がそうじゃないですか。「海外に1~2年滞在して、また日本の企業に戻る」というパターンが一番辛いと思います。そういう人、たくさん見たので。

——僕も留学したときに思いました。ほとんどの日本人が会社でお金貯めてから辞めて、貯金尽きるまで留学や世界一周やるんですよ。日本に帰国後、また企業に戻るんですよね。もちろんネガティブな意味で。

ゲンキ:それは「世界中どこにいてもお金を稼げるスキルがないから」なんですよね。

——イラストレーターは正に場所関係なく仕事できますもんね

ゲンキ:だけど将来、”イラストレーター”という職業自体がなくなるかもしれないんですよ。これからは自分でコンテンツを作れないと厳しい時代でしょうね。僕の描いてる漫画の”タッチ”は真似できても、”ストーリー”は僕自身の人生なので、脳みそをスキャンされない限り盗むことは無理ですから。

イラストレーターゲンキさんの今後の展開は?


——今後の動きはどういった感じでしょうか?

ゲンキ:今は子育て中なので新規のイラストの仕事はお断りしてるところなんですよ。「仕事と子育てどちらが大切か」と聞かれたらそれは後者ですよね。夫婦共に在宅のフリーランスなので本当に良かったな〜と感じます。

おそらく今、日本でTOP10に入るくらい「育メン」だと思いますよ(笑)。そして、現在連載中の「ライフハックで行こう!」は電子書籍になる予定です。来年の春頃には書籍化を目指してます。日本に伺うこともこれから多くなるかもしれません。

——おお、すごい!是非日本でも遊びましょう。今後の展開楽しみにしてます!


というわけで、ベルリン在住のイラストレーター高田ゲンキさんにお話を伺いました。

  • ベルリンに移住しても全く問題なく仕事できる
  • ドイツの教育と日本の若者との違い
  • ドイツでの子育てに期待すること
  • アーティストもそうじゃない人も一緒に街と社会を作っていく意識がある

様々な点で勉強になりましたし、ベルリンの魅力や日本との大きな違いもお話の中で理解できました。話聞けば聞くほどベルリン移住そそられる…。

お忙しい中快く取材を引き受けてくれてありがとうございました!このお話をできるだけ多くの日本人にシェアしたいと思います。

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