AIに真っ先に代替されると思ってた「翻訳」の真の価値

ほぼ毎日、鈴木大拙館に足を運んで瞑想してます。何度行っても飽きない。人工的な建築物と自然が見事に調和していて同じ景色なのに、毎回新しい発見や小さな感動があります。さて。

「いま一番儲けてるのはミュージシャンではなく、DJ。料理人ではなく、食べ歩きしている人」なんて話はよく聞くと思います。世はキュレーション時代です。キュレーションとは世界中にはびこる情報を集め、整理すること。さらには集めた情報を編集し、新たな意味や価値を付けることを意味します。オリジナルコンテンツを生み出す人より、実はそれらのコンテンツを編集して発信する人の方が名を上げているのがインターネットが主流となった今の時代です。ちなみにキュレーションはラテン語で「世話役」という語源を持つんですね〜。

鈴木大拙は禅の思想を英語翻訳し、世界的なブームを巻き起こした人ですが(ZENの影響を受けた著名人はスティーブ・ジョブズ、「4分33秒」のジョン・ケージ、「ライ麦畑でつかまえて」のJ・D・サリンジャー)、彼はただの「翻訳家」でしかなかったんですね。翻訳は、現代では真っ先にAIに代替される仕事と言われてます。

明治維新とほぼ同時期に生まれた大拙ですが、当時は日本と世界が緊密に結びついていく時代でした。大拙はアメリカに渡り、仏教を日本語から英語に翻訳することで、キリスト教と対話可能な「新しい仏教」を作りました。心の根源的な在り方=真如を”Suchness(あるがまま)」と分かりやすく一言で英訳したのは見事としか言えません(大拙のひとつ上の世代の人たちは”permanent reallty 永遠の実在”とか”The Mind pf Absolute Unity 完全な統一のための真の心 などと翻訳してました)

帰国後はキリスト教神秘主義の可能性について英語から日本語に翻訳しました。つまり英語と日本語の”間”、仏教とキリスト教の”間”を生きた人なのです。

世界がひとつになった近代における「真の創造性」とは、異なった文化同士をひとつに結び合わせる「翻訳」にこそあると述べたのは文芸評論家の安藤礼司さん。「翻訳」を重ねることと、「解釈」を重ねることは、文化と文化の”間”でまったく新しいひとつの言語をつくることと等しいと言いました。鈴木大拙はグローバルな世界を生きることで新たなローカリティを発見したのです。

NY在住のこんまりさんが「ときめき」を「Spark Joy」と英訳し世界的にこんまりブームが起きましたが、まさにグローバルの中で新たなローカリティを発見してます。村上隆さんも著書の芸術起業論の中で「アーティストは翻訳にも投資すべき」「5〜6人の翻訳者で、5〜10回の推敲重ねて作り上げる」と書いてました。

ちなみにTranclater(翻訳家)の語源は「向こう側へ運ぶ人」です。面白いですね。