どうも、インタビューライターのやまりょうと申します。
カメラ好きの方の中には、「カメラを仕事にしてみたい…」と考えたことある人は多いのではないでしょうか。しかし、実際に仕事として活動するとなると、中々難しい。
「カメラの仕事って何から始めたら良いか分からない」
「実際にどうやって仕事につながるのか、全くイメージできない」
こういった壁にぶつかる人が多いのも事実です。そこで今回は、”フリーランスカメラマン”として注目を集めている、矢野拓実さんに
- フリーランスカメラマンとしてのはじめの一歩
- カメラマンとしての発信活動〜SNSの使い方
- 写真を撮るうえで必要な考え方
についてお聞きしました。ぜひご覧ください。
フリーランスカメラマン 矢野拓実
矢野 拓実
1993.04.13 生まれ
写真家・カメラマン。長崎大学経済学部卒。在学中にパリへ留学し、アートの世界に触れる。
卒業後、就職のために上京するが両親の死、続く熊本の地震を経験し、「明日死んでも後悔の無い人生にしたい」と思い至り、写真家としての道を志す。
「透明感」をテーマとした撮影を得意とする。JAL、Wantedly、Yahoo!などの有名企業に対する撮影実績を持ち、Newspicks掲載記事の撮影なども担当している。
広告写真や取材写真・宣材写真の撮影を行うほか、フォトサロン「Salon de Photo」の運営など、コミュニティづくりにも力を入れている。
入社して1年経たず、企業勤めからカメラマンへ。きっかけは偶然の出会い。
——フリーランスカメラマンとしての活動を始められるまでの経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか?
矢野 フリーのカメラマンとしてのキャリアのスタートは、2017年の1月ですね。ファーストキャリアはカメラとは全く関係ない仕事でした。2016年4月から企業に入社したんですが、同年10月の末に退職しまして。そしてカメラマンとして生きていく決意をして、翌年の1月にフリーランスになったという流れですね。
「学生時代から旅を仕事にできたら良いな」という想いがあったんです。それを実現するための手段の可能性を考えた時に、ずっと好きだったカメラを選択しました。
ただ、学生時代は得られる情報も少なく、選択肢があまり無かったんですよね。周りの学生の時間の使い方と言えば「バイト」か「サークル」かの二択だったし、周りでカメラを仕事にしている人なんていなくて。正直やっぱり厳しいのかなと思っていました。他にも家庭的な事情などもあり、一度企業への就職を決めたんです。
好きな時に、好きな人と、好きなことをする。そんな人生に触れ、憧れた
—— 一度は就職されてるんですね。そこからフリーランスとして踏み出したきっかけは何だったんでしょうか?
矢野 これは本当に偶然の出会いなんですけど、知り合いのつながりで安藤美冬さんのイベントに行ったんです。そこで「好きな時に、好きな人と、好きなことをして生きる」という生き方に触れました。純粋に「カッコいいな。自分もこんな生き方をしたい」と思うようになって。
そこから美冬さんの運営するサロンに入り、様々な生き方を知ることになりました。その後、友人から偶然チケットをもらって参加したフェス「旅祭」にて、美冬さん、株式会社CRAZYの山川咲さん、「モバイルボヘミアン」などの著者である四角大輔さん、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」シリーズの詩歩さんのお話を聞く機会がありました。そのとき皆さんの写真を撮影させて頂いたんです。すると、本当にありがたいことに、その写真をSNSなどで使って頂いて!反響がたくさんありました。
そのときに自分が生み出したもので喜んでもらえる幸せを知って。「人に喜んでもらう写真が撮りたかったんだ」と気付きました。
その前にも色々な要因が重なったこともあって、挑戦を決めたんです。「明日死んでも後悔の無い人生にしたい。カメラマンとして生きていこう」。そう思いました。
そこからは、会社員をしながらカメラマンの仕事をするようになって。コミュニティのメンバーや友人に頼んでポートレートを撮らせてもらったり、海外を旅して、写真を撮り続けていました。そして2016年12月に帰国。翌年1月にフリーランスとして独立しました。
悩んでいるなら、とにかく足を動かしてみてほしい。それが最初の一歩になる
——なるほど…!本当に偶然の出会いが、人生を大きく変えたんですね。
矢野 そうなんですよ。それが無かったらと思うと恐ろしいです(笑)。なので、もしかつての僕と同じように悩んでいる人がいるなら、とにかく興味のあるイベントに足を運んで欲しいですね。
そこからできるつながりって本当に大きなものだし、踏み出すきっかけをくれるような場所になったりするので。あと、「自分の尊敬できるメンターを持つこと」。右も左も分からない状況ではそういった存在がとても心強いんです。
自分のnoteでも書いているんですが、部分的なメンターを複数持つことが大事かなと思っていて。僕の場合、独立してからの1年の支えになったのは、キングコング西野さん、安藤美冬さん、落合陽一さんの考え方でした。
自分が尊敬できる複数の人をメンターとしてその思考に触れること。そうすることで、独立して苦しいことだらけの1年も、何とか乗り切る事ができました。こんな感じで、つながりを作ることや、目標となる人を見つけることが、最初の一歩としてとても大事じゃないですかね。
フリーランスカメラマンとして活動していく上での、SNSとの向き合い方
まずはひたすら撮って、発信すること。走りながら方向性を決めていく
——足を動かすこと、とても大切ですよね。矢野さんってSNSの使い方がすごく上手いなという印象があって。カメラを仕事にする上でも、SNSってもはや無視できない存在だと思っているんですが、運用していく際に気を付けていることってありますか?
矢野 まず写真のクオリティがとても大事ですよね。そうした部分は撮り続けるしかないと思っているので、ひたすら撮って、発信する。まずこれが前提だと思っています。その上で、仕事につなげたいのであれば、どう仕事にしたいのかイメージをしっかり持つこと。つまり方向性を決めるということですね。
僕の場合、様々な理由からあらかじめ商業カメラマンとして活動すると決めていました。ブライダルの撮影して、キッズの撮影して、ファミリーの撮影して…という感じで色々やっていると、「結局何の人なんだっけ?」と、なかなか人の印象に残りづらい。
もちろん最初から決めるのは難しいと思います。走りながら分かってきてやがて絞っていく必要があるということは、意識しておくと良いのかなと思います。
写真の「統一感」や「ルール」を決めて発信すること。「自分の写真をどうやって使ってもらいたいのか」を貪欲に考え抜く
——ただ「カメラマン」と名乗るだけでなく、方向性をしっかり意識した上で活動していくことが重要というわけですね。実際に矢野さんはどういう方向性でSNSを運用していますか?
矢野 僕の場合、SNSはまず「インスタグラム」から入りました。写真の方向性は結構模索しながらやっていましたね。最初は男性を撮ったり、カップル写真を撮ったりしていたんですけど、途中から「透明感のある女性の写真」をテーマに絞りました。
自分にとって相性の良いテーマで、実際にお仕事をお願いされることも多かったんです。ですので、そのテーマに振り切って発信していくことを決めました。SNSの発信においてはルールや統一感が大事だと思っています。
例えば僕は、インスタにおいて「縦写真しか載せない」というルールを決めているんですけど。宣材写真・プロフィール写真・コンポジット向けの写真には縦構図が適しているのが理由です。他にもテーマから離れてしまうので、夜の写真は載せないようにしています。
あと最近は、ポートフォリオとして利用するために同じモデルさんの写真を3枚並べて載せるようにしています。こうすることで、モデルさんがどんな人なのかが明確に伝わるので、クライアント様からモデルさん含めた撮影の依頼を呼び込む意図があります。モデルさんとも一緒に仕事をしていきたいっていう想いがあるので。
このように統一感を持って発信することによって、インスタで僕の写真を見てくれた人は「この人は、明るい雰囲気の女性用宣材写真などをメインで撮っている人なんだな」と認識を持ってくれるので、実際にそうした依頼が増えてくるようになります。
やはり発信する以上、自分の写真をどう使ってもらいたいのか、貪欲に考え抜くことは大事だと思っています。自分のアートを相手にどう使ってもらい、喜んでもらうか。そこをしっかり考えていくことではないでしょうか。
——最近の矢野さんを見ていると、Twitterにすごく力を入れているなという風に感じているのですが、そちらはどうでしょう?
矢野 はい、確かに最近はTwitterにも力を入れています。「インスタのアルゴリズムが少し変わったのでは?」という流れもあって。発信力を高めて仕事につなげるという意味では、Twitterの強さを実感してますね。
基本的にTwitterの運用に関しては、プロ無職るってぃさんの記事が参考になると思います。自分も実際取り入れましたし、かなり再現性の高い方法だと感じています。
「とにかく足を運べ!」お金を払ってでもイベントに参加して仕事レベルのクオリティで写真を撮る
その上で、カメラマンのぼくから何か言えることがあるとするならば、「とにかく足を運べ!」ってことですかね。
僕は複数のコミュニティに所属しているのですが、そうしたコミュニティで開催されるイベントに足を運び、自分からお願いして撮影させてもらったりしました。
良い写真を撮って運営側の人に渡したり、登壇者にメンションを付けてツイートしたりすると、高い確率で自分の写真を使ってくれたり拡散してくれたりして。
キンコン西野さんは梶原さんとキングコングが好きなんだなあと感じた夜。#天才万博2017#天才万博 pic.twitter.com/yh5LSGYH7v
— takumi YANO/矢野 拓実 (@takumiYANO_) 2017年12月29日
昨日の講演の写真はエモかったな. #moa大学 pic.twitter.com/KeF1bm2S4z
— 落合陽一/Dr.YoichiOchiai (@ochyai) 2017年7月23日
写真のクオリティに加え、有名人の信用が相まって知名度が上がっていくっていう感じです。お金を払ってイベントに参加して、そこで仕事レベルのクオリティの写真を撮る。それが結果的に営業になって仕事につながっています。
入り口は、必ずしも写真そのものである必要はない。フォロワーをファンに変えていく
——自分がお金を払ってでもクオリティの高いものを出していく姿勢。そのクオリティが目に止まり、結果的に営業になっていくというわけですね…!
矢野 そうですね。プル型の営業活動という感じでしょうか。あと、大切にしていることが「本当に伝えたいものは、二番目で良い」という考え方。キングコング西野さんが仰っていたことなんですけど。
僕はTwitterでは写真を投稿するだけでなく、クリエイター向けの発信も行っています。これって一見すると写真から遠ざかっているように見えるんですけど、しっかりと意図があって。例えば、このツイートとかを見てもらうと分かりやすいですかね。これはカメラが上手くなりたい人向けに振り切った例ですが。
【140字でまとめるマニュアル設定】
最初はISOを最低で。シャッター速度を1/125で。
①ぼかしたいならF値を開放ぎみ(1.8等)、くっきりさせたいならF値を絞る(5.6や8)集合写真や背景
②明るいなと思ったらシャッター速度を早める(1/500や1/1000等)
③暗いなと思ったらシャッター速度を遅くorISOをあげる pic.twitter.com/ziQMlCZYxm— takumi YANO/矢野 拓実 (@takumiYANO_) 2018年2月11日
僕の経験から来る写真撮影のノウハウをツイートする。するとこの情報に興味を持ってくれて、自分をフォローしてくれます。そこから実際に撮っている写真を見てくれる中で、フォロワーからファンに変わっていく。
もちろん「カメラマン・写真家」として一番に伝えたいのは写真です。ただ、それは二番目に出せばいい。ぼくの経験から来るノウハウや、クリエイターとしての考え方に興味を持ってくれたならそれで良いんです。そこから写真を見てもらえて、「好きだな」って感じてもらえたら嬉しいな、と思ってます。
カメラマンとして発信するからといって、入り口は必ずしも写真そのものである必要はないんです。
この辺の話やクリエイターとして参考になる話が、西野さんの「魔法のコンパス」や「革命のファンファーレ」に書かれています。
カメラマンが持っておくべき「ビジネス」と「デザイン」の考え方
——なるほど、「切り札は隠しておく」という感じですかね!矢野さんってすごく戦略的ですよね。ビジネス思考というか。そういった勉強をされていたんでしたっけ?
矢野 学生時代は、大学や留学先で経営やマーケティングを学んでいたので、そういった影響はあるかもしれませんね(笑)
現代においてクリエイターとして成功したいのであれば、ビジネス思考を持つことはすごく大切かなと思います。常に根拠を持って話ができるかどうか。
例えば、イベントで知り合った方がクライアント様になることが良くあって。最初は相談から始まるんですよ。
例を挙げるならば「採用ページの写真を撮りたい」という悩みがある場合、「どういう写真が必要で、それを撮れるのは自分なんです」と相手にしっかり示せるかどうか。その根拠となるデータや知識が重要です。
社会のトレンドであったり、プラットフォームに関する理解であったり。そういったリサーチは常にしていますし、自分も相手も納得感を持って仕事につなげることが出来ていると実感します。
「自分らしく、そして意味のある写真を撮りたい」デザインとしての写真と向き合う
——納得感のある仕事をすること、お互いにとって大事ですよね。写真そのものに関しても、そうした納得感を重視されていたりしますか?
矢野 自分らしく、そして意味のある写真を撮りたいっていうのは、常に思っています。写真ってデザインの一要因だと思っているんですよ。なので、デザインの考え方も非常に大切にしています。
例えば、目線の先や空白の位置などで、未来を見ている様を連想させたり、過去を連想させたりするんですよね。こういう構図も非常に意識して写真を撮っています。


パッと見ただけでその写真の意図が伝わるかどうかが非常に大事で。そのために極力ノイズとなる情報を減らしたりもします。机の上の余分な物をどかしたりだとか、いらないものはどんどん引いていって、本当に伝えたい情報が伝わりやすいようにしていますね。
カメラマンとしてのこれからで迷っているなら、一緒に進んでいきませんか?
——本日はありがとうございました!最後にフリーランスカメラマンとして活動したい人へ向けて、矢野さんから一言あれば、お願いします。
矢野 そうですね…では少し宣伝をさせてください(笑)。現在僕は、「Salon de Photo」というオンラインサロンを運営しています。現時点で30人以上が入ってくれていて、本当にありがたい限りです…!
ここでは現在、自分の発信に関する考え方や戦略を共有したり、月に2回、女性モデルさんをお呼びして撮影イベントを行ったりしています。
今回僕の考え方を色々お話ししたと思うんですが、実際に1人でやるとなるとハードルが高いと感じる人も多いと思うんです。このサロンでは実際に人を撮る経験が出来る場所を提供していますし、仕事を取るまでの流れを教えたり、橋渡しもしています。
「カメラマンとしてどう活動していけばいいか分からない」という方は多いのかなと感じていて、そうした人たちの手助けができればと思っています。実際にサロン内で仕事の循環も起き始めてます。
何よりも、カメラをみんなで楽しくやっていきたいっていうのが一番あります。他の人が撮った写真を見るのって純粋に楽しいし、写真を楽しんでいける仲間がもっと増えたら良いなと思っているので、ぜひ興味ある方はご入会頂けたらと思っています!告知失礼しました!(笑)
矢野さんのサロン「Salon de Photo」の入会はこちらから!
取材を終えて
カメラマン・写真家として、日に日にその存在感を増してきている矢野さん。取材を終え、彼の真面目で、戦略的な思考の一端に触れることができました。
クリエイターは自分の作品をどのように使ってもらいたいかをしっかり意識しなければいけない。そして、作品をどうやって相手に届けていくかも戦略的に考える必要があります。
写真を撮って終わりではなく、その先まで見据えたうえで逆算して行動していくことが、カメラマンを始め、クリエイターに求められていくのではないでしょうか。
Photo by 草葉あゆみ