あなたには熱中できるものがありますか?
今目の前にあるものはなんとなくつまらないと感じ、「熱中できるものを見つけて仕事にしたい」と考えている人もいるのではないでしょうか。
私が今回取材させていただいた猪俣早苗さんが熱中して仕事にしたのはなんとご当地レトルトカレー。
猪俣さんは、ご当地レトルトカレーを1900種類以上も実食するほどのマニアで、ハマってからわずか5ヶ月で専門店をオープンさせたそうです。
専門店の経営だけではなく、Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラムで動画の配信やメディア出演など幅広く活躍され、カレーを通してご当地食材と地域の魅力を伝えています。


今回はそんな猪俣さんにご当地レトルトカレー専門家になったキッカケから、熱中するものの見つけ方、そしてカレーを通して伝えたいことまで聞いてきました。
元々カレーは好きじゃなかった!?ハマってわずか5ヶ月でご当地レトルトカレー専門店をオープン
——猪俣さんがご当地レトルトカレーにハマったキッカケはなんだったのでしょうか?
猪俣:そもそも私はカレーがそんなに好きじゃなかったんですよね。
——え!?ご当地レトルトカレー専門家なのに、カレーが好きじゃなかっただなんて一体なにが…?
猪俣:カレー好きな夫のために、母が島根県のしじみのレトルトカレーを買ってきてくれたんです。
——しじみのカレーなんてあるんですか!?
猪俣:しじみをカレーに入れて主役にするなんて驚きましたが、逆におもしろいと思っていろんなご当地のレトルトカレーを食べるようになりました。
それに、知らなかった地域や特産物のことを知るのも楽しくて、どんどんハマっていったんです。
——ご当地レトルトカレー専門店を開くまではどんな経緯があったんですか?
猪俣:ご当地レトルトカレーって、販売員の方でも実際には食べたことがなかったり、パッケージに書いてあることをそのまま読んでいるだけだったりと、リアルな声が聞けないんです。
だったら自分たちで実食していいと思ったものを販売したら、同じように困っている人の助けになるかなと思ったんです。2013年5月からハマって、5ヶ月後の10月にはお店をオープンしました。


——5ヶ月…!ハマってからの熱量の高さとスピード感がすごいですね。
猪俣:逆にもっと食品業界や飲食店の大変さを知っていたら、お店を開いていないと思います。カレーにハマったばかりで熱量がすごく高まっていたときのノリだったんですよね。
物件がなかなか見つからず苦労もしましたが、カレーを探すのがとにかく楽しくて夢中になっていたので、オープン当時は1日2食、合計300食くらい食べていました。
カレーの美味しさよりも大事なのは特産品が活かされているか


——お店に並べるカレーはどのように決めているのでしょうか?
猪俣:美味しさはもちろんですが、それよりも「地域性があること」や「特産品が活かされていること」を大事にしています。
今の時代はなにか+αを伝えることで売れるので、作られた経緯や特産品の特徴など、伝えたいことがあるかというのが基準ですね。
——カレーだけではなく、その地域の特産品についても調べているんですか?
猪俣:カレーを食べたときに特産品が活きているかがわかるように、ご当地に行ったら絶対に食べるようにしています。
でも最初のころはどんなカレーが売れるわからず、なんでも仕入れてお客様の反応を見ていました。
そんなときに北海道の更別村が出している、「さらべつ黒毛和牛」を使ったカレーに出会ったんです。
猪俣:さらべつ和牛は年間50頭しか出荷されない貴重な牛なのに、ご当地の人たちは身近すぎて価値がわからず、600円と安く販売しているのが現状です。
600円は安すぎるので東京では1000円で販売していますが、徐々に現地でも値段を上げていって、地元の人が自信を持ってブランド牛として出せるようになってほしいですね。お店に来ていただいた方にはそういった背景やストーリーを伝えるようにしています。
——さらべつ和牛のことを知らなかったら手を取りづらいかもしれないけど、背景を知ると多少高くても食べてみたくなります!


猪俣:ご当地レトルトカレーを販売している人たちの多くは、ただカレーを作りたいわけではないんですよね。だからみなさんもカレーを食べただけで終わらず、そこから地域や特産品の魅力を知ってほしいです。
お客様でホタテカレーを食べたあとにホタテのお取り寄せを始めた人がいたり、北海道の美瑛豚カレーをきっかけにご当地にさくらんぼ狩りに行った話を聞いたときは嬉しかったですね。
——猪俣さんがこの仕事をしていてよかったなと思うのはどんなときですか?
猪俣:「この前のカレー美味しかったよ」と言ってくださったときはもちろんですが、カレーを通じて地域や特産品が知られることが嬉しいです。
地方から上京してきた人が地元のカレーを見て喜んでくれたり、熊本地震のときには熊本から東京に来ていた人が地元の黒樺牛カレーを見て泣いてしまった方もいました。
東京でも価値が認められて売れることで、地元の人が自信を持ってくれたら嬉しいですね。
目の前のことにハマってみれば違う視点が見えてくる。そして自分の好きなことに繋がっていく
——最後に、猪俣さんがこれからやりたいことを教えてください。
猪俣:カレーを通して見つけた、美味しい特産品を広めるためのセレクトショップもできたらと思っています。
実はこのご当地レトルトカレー専門店は、利益よりもその先の動物や自然の保護に繋がることを意識しているんです。
——ご当地レトルトカレーが自然や動物の保護に繋がるんですか?
猪俣:ご当地や特産物の魅力が伝わって地域が活性化すれば、放置されていた自然に手が加わって保護に繋がるんです。他にも特産物がきちんと流通に乗れば、動物の餌付けになるのを防ぐこともできます。
カレーが、前から大好きだった動物や自然の保護に繋がったのは、カレーをとことん追っかけてその土地や背景を調べたからなんですよね。
私がもともと好きじゃなかったカレーにハマったように、もし今目の前にあることが好きじゃないと思っても、ハマってみれば違った視点で見えたりします。
ずっと追いかけていると、いつか自分がずっと好きだったことや想っていたことに繋がるので、今やっていることの中で楽しいことを探していくといいんじゃないかなと思いますね。
取材を終えて
「好きなものを仕事にする」とは最近よく聞く言葉ですが、好きなものを通じて何をしたいのかをきちんと持つことが大事だなと感じました。
地域について発信するのはその地域の人だとばかり思っていたのですが、東京にいながらも全国の特産物の魅力を伝えるやり方もあるんだと気づきました。
実際に私も猪俣さんと知り合ってから、ご当地のレトルトカレーを食べたり旅行先の特産物に興味を持つようになったんです。
浅草にあるご当地レトルトカレー専門店の「カレーランド」では全国各地のカレーが揃っているので、ぜひ足を運んでみてください!
猪俣早苗さん:@sanaeinomata
photo by さどまち:@mck0129