映画「海獣の子供」を観に行ってきました。
海獣の子供、駆け込みで観てきましたが素晴らしかったです。
「大切なことは言葉にできない」
今年に入ってからずっと抽象世界のことを考えてたので「このタイミングできたか!」と。やっぱり作品は会うべくタイミングで会うと実感。アートやってる人や文章やってる人は是非課題作として観て欲しい pic.twitter.com/DNe17ZTxoG
— るってぃ/プロ無職 (@rutty07z) July 12, 2019
主題歌は今をときめく米津玄師さん、劇中歌は久石譲さん、映像制作は「鉄筋コンクリート」などを手がけたSTUDIO4℃という豪華ぶり。
噂には聞いてたけど、観てド肝を抜かれました。この作品は「売る気がない」のです。話があまりにも抽象的すぎて後半の30分、観客は完全に置き去りにされます。これは商業映画と言うより、むしろアートです。映像、音楽は素晴らしいの言葉に尽きるので観てるだけで泣きそうになりますが、ストーリーの解釈はこちらに委ねられるので、思いっきり人を選ぶ作品でしょう。
これだけ豪華キャストを用意してお金もかけて、興行的に普通は売りたいと思うはずです。しかし、原作の「あの分かりにくさ」をそのまま最優先して制作したことに僕は感動しました。ちなみに海獣の子供の予想興行収入は5億円で、3年前に大ヒットを記録した「君の名は」は250億円です。
海獣の子供は君の名はの後出し作品。原作に少しテコ入れしてもっと売れる映画を作ろうと思えばできたかもしれません。でも、それをやらない。君の名がヒットした2016年以降増えた、世間的に”分かりやすさ”を求める大衆やそれに応えるような作品に対するアンチテーゼに感じました。豪華キャストを呼んであえて売らない、もはやケンカを売ってるようにも見えました。笑
役に立つけど意味がないもの<<<役に立たないけど意味があるもの
パブリックスピーカーの山口周さんがとても面白い話をしてました。
日本の家電産業や車がなぜグローバルで戦えなくて負けているか、それは「役に立つけど意味がない」からだと。役に立つけど意味がない市場で戦うと、1位じゃなきゃほぼ使われません。そりゃお金払うなら一番パフォーマンス高いものを選びたいからです。例えば検索エンジンのユーザーシェアの9割はGoogleで、「役に立つけど意味がない」世界ではWinner takes allが鉄則です。
しかし、高級車は普通車の10倍の値段がついても機能は10倍になったりしませんがそれでも売れてます。それは「役には立たないけど意味がある」からです。上にドアが開く車って役に立つ訳じゃありませんしむしろ不便です。それなのに車や高級時計が売れるのって、ステータスをアピールできる意味を持ってるからなんですよね。逆に「役に立つ」ところで戦ってしまうと必然的に競争にさらされます。

つまりこれからの未来は、「役に立つこと」の価値は下がる一方で、「役には立たないけど意味があること」の価値が上がるわけです。
日本のコンビニではハサミやノリといった文房具(役に立つけど意味はないもの)は、基本的に1種類ずつしか置いてません。しかし、タバコが200種類も置いてある理由や、数あるメーカーの中でみんながApple製品を使う理由。それは、買う人にとって意味があるからではないでしょうか。要はブランド力です。
参考記事:GAFAのなかで、Appleだけが「意味」の世界で闘っている グローバル競争で生き残るのに必要な、たったひとつの考え方
役に立つことはみじめ?長い人生に「問い」を持たせてくれるものを
また、コルク佐渡島さんの「役に立つことは、みじめなことかもしれない」という話をしましょう。
いま自己啓発本やオンラインサロン、有益な情報を発信してくれるSNSアカウントが増えてるが、役に立つことはもちろん素晴らしいことです。だけどそれって裏を返せば「役に立たないこと=不毛、意味がない」ってことではないでしょうか。
しかも今すぐ役に立つことほど、消費は早まります。自己啓発本はエナジードリンクのようなもので、読んだその瞬間はやる気は出ますが、次の日にはなくなってたりします。それならば、役に立たないことがみじめなのではなく、「役に立つことがみじめ」なんじゃないかなぁと思ったりする訳です。
だから一見役に立たないような小説などのコンテンツが、いまその瞬間は理解できなくとも、「あれはどういう意味だったんだろう?」という問いを持たせてくれます。そういったものの方が、長い人生を生きる上で役に立つのではないでしょうか。

話を冒頭に戻すと、「海獣の子供」はまさにそういう映画です。観た瞬間理解できる分かりやすい映画ではなく、長い時間をかけて咀嚼していく映画です。だから、いまの僕にはとてもハマった映画だったのです。
内容が壮大だけに、これから長い人生をかけてあの映画の意味を咀嚼して取り込んでいく楽しみができました。最初から5億円程度の見込みなら、米津玄師さんや久石譲さんにオファーしただろうか。あの映画を製作した意図にすら、役には立たないかもしれないが意味があるものを感じます。
「大切なことは言葉にできない」「一番大切な約束は、言葉では交わさない」
この映画のメインメッセージです。
この世の9割はまだ科学的に立証・言語化できない暗黒物質でできています。だから、役に立つ便利なツール「言葉」に傾倒すること、言語化を重視する流れへの違和感。
みなさんは何を感じますか?