映画評「海獣の子供」役に立たないけど意味があるもの

映画「海獣の子供」を観に行ってきました。

主題歌は今をときめく米津玄師さん、劇中歌は久石譲さん、映像制作は「鉄筋コンクリート」などを手がけたSTUDIO4℃という豪華ぶり。

噂には聞いてたけど、観てド肝抜かれました。

わけわからんっ!!!!

話がむちゃくちゃ抽象的すぎて後半の30分、完全に置き去りにされました。

これは商業映画を超えて芸術です。映像、音楽は素晴らしいの言葉に尽きるので観てるだけで泣きそうになりますが、ストーリーの解釈はこちらに委ねられるので、思いっきり人を選ぶ作品だと思います。

新海誠監督の「天気の子」の裏でこれやるかと…!

言語化を重視し、分かりやすい作品が増えている中で、クリティカルに時代を刺しに来てんなと。本当にびっくりしちゃったので頭混乱しながらこれを書いてます。

役に立たないけど意味があるもの

ふと、パブリックスピーカーの山口周さんの「GAFAのなかで、Appleだけが「意味」の世界で闘っている グローバル競争で生き残るのに必要な、たったひとつの考え方」を思い出してました。

日本の家電産業や車がなぜグローバルで戦えなくて負けているか、それは「役に立つけど意味がない」からだと。役に立つけど意味がない市場で戦うと、1位じゃなきゃほぼ使われません。例えば検索エンジンのユーザーシェアの9割はGoogleで、「役に立つけど意味がない」世界ではWinner takes allが鉄則。

しかし、高級車は普通車の10倍の値段がついても機能は10倍になったりしませんがそれでも売れてます。それは「役には立たないけど意味がある」からだと。上にドアが開く車って役に立つ訳じゃありませんしむしろ不便です。それなのに車や高級時計が売れるのって、ステータスをアピールできるなど様々な意味を持つから。「役に立つ」ところで戦ってしまうと必然的に競争にさらされます。

つまりこれからの未来は「役に立つこと」の価値は下がる一方で「役には立たないけど意味があること」の価値が上がるという山口さんの話です。要はブランド力うんぬんの話です。

役に立つことはみじめなの?

また、コルク佐渡島さんの「役に立つことは、みじめなことかもしれない」も。

いま自己啓発本やオンラインサロン、有益な情報を発信してくれるSNSアカウントが増えてるが、役に立つことはもちろん素晴らしいことです。だけどそれって裏を返せば「役に立たないこと=不毛・意味がない」ってことではないかという話。

自己啓発本はよくエナジードリンクに例えられますが、読んだその瞬間はやる気は出て次の日にはなくなるという。それならば、役に立たないことがみじめなのではなく「役に立つことがみじめ」なんじゃないかなぁと思ったりする訳です。

だから一見何の役にも立たないような芸術的コンテンツが、いまその瞬間は理解できなくとも「あれはどういう意味だったんだろう?」という問いを持たせてくれる。そういったものの方が長い人生を生きることを考えれば「役に立つ」のではないかと。

大切なことは言葉にできない

この映画のメインメッセージです。

この世のほとんどのことはまだ科学的に解明されてないことばかり。それなのに言語化を重視する世の中の流れへの違和感。

最近自分は文中に書いたようなことを考えていたので、いまの僕にバチハマりの映画でした。これから時間をかけて映画を咀嚼していくのが楽しみです。