出版不況の時代における本屋の新しい役割と可能性は何か

「今日から人生を変える本の読み方と伝え方」というイベントを開催しました。渋谷のブックラボさんとの共催です。

100名以上お客さんが集まりまして、自分で言うのもなんですが「登壇ゲスト・参加者・スペース提供者」の満足度が高い三方良しなイベントになったと思います(ぜひTwitterで #人生本 のハッシュタグで追ってみてください)

ただ昨日はファシリテーターに専念していたので、昨今の本屋について色々書きたいと思います。

25年間一切読書をしなかった男が本を読めるようになったワケ

山形の郁文堂書店がおもしろすぎた

リアルの書店に興味を持った理由は、今年の6月に訪れた山形市にある「郁文堂」がキッカケです。

司馬遼太郎などの文豪がサロンとして足を運んでいた書店だったのですが、時代の変化と共に書店のニーズが減る中で、シャッターが閉まりかけていた郁文堂を山形の建築学科の学生が「リノベしたい」と懇願。

店主のおばあちゃんははじめ怪訝な顔をしたけれど、毎週お店の掃除を手伝いにくる学生らに心打たれ、リノベーションを承諾。

結果として、書店としての形を残しつつも、山形の人が集まるコミュニティスペースに変身したというストーリー。歴史を継承しながらも、店主と地元の学生が協業したケースです。店主のおばあちゅんがまた可愛いんです。

僕はこの「郁文堂」のストーリーと、店主・学生・お客さんの織りなすコミュニティの形に完全に心打たれました。

日本全国に面白い本屋はたくさん存在する

北海道砂川市にある「いわた書店」も面白いんです。いわた書店の店主は超がつくほどの本オタクであり、

  • 最近読んだ本
  • 職業
  • ○、×、△で評価するアンケート

を記入すれば、店主がその人にあった1万円分のおすすめの本を送ってくれるサービスを提供してます(価格も1万円)

しかも、いわた書店ではこの記入シートを「カルテ」と呼んでます。

つまり、お客さんが自分の読書歴を振り返ることで今潜在的に抱えている悩みをあぶり出すことができ、店主はその悩みを解決するような本を依頼者に送るというカラクリ。

学校でのいじめに悩む子供に選書した本を送ったこともあると言います。つまり、本を「コミュニケーションツール」として活用している良い例ですよね。

本って一冊たったの1000円とかだけど、人によっては勇気や大きな可能性、そして人との繋がりを与える素晴らしいものなんだなと考えさせられます。店主がインタビューでこう語ってる姿に、人柄を感じますね。

好みが明確な人はわかりやすいが、『鬼平犯科帳』と中村うさぎのエッセイどちらにも「◎」をつけてくるような“オールラウンダー”相手の選書こそ、店主の腕の見せどころ。

「そういう人には明治時代に日本を旅したイザベラ・バードの『日本奥地紀行』。こうくるか、という変化球を投げて読書の幅を広げてほしいんです」

出典:北海道書店ナビ  第207回 いわた書店

 

品川区五反田にあるのが選書する書店「フォルケ」

こちらは先ほど紹介した「いわた書店」の選書サービスと、ドイツの「本をプレゼントする文化」にインスパイアされた完全予約制ブックサロンです。

店長の堀越さんは本業は経営コンサルタント。高校を半年で中退後、2年間引きこもっていた過去を持っており、その時に自宅にあった世界文学と日本文学全集を読み漁り、生きる勇気を古典文学からもらったことが引きこもりから脱出するきっかけになった、というストーリーを持ちます。

選書する堀越さんの強みは、引きこもり時代に読み込み、自分を救ってくれた古典への造詣(ぞうけい)の深さと、15年以上も年間300冊以上の書籍を読み続けてきた膨大な読書量。そこに、経営コンサルタントで鍛え上げた、相手の気持ちを引き出しつつ、自信を持ってプレゼンテーションするスキルが加わる。

参考:<97>読むべき本を経営コンサルタントが選書 「フォルケ」

フォルケでは週に1~2回読書会や朗読会、セミナーなどのイベント・懇親会を開催しており、書店というよりはコミュニティに基軸を置いてます。

出版不況の中、こういったコミュニケーションツールとして本を用いてコミュニティとしての機能を担う本屋さんが増えていくと思います。

本と本屋が今とても熱い…!

出版不況と言われる中で、別の価値を持ったユニークな書店(と見せかけたコミュニティやサービス)が生まれつつあって、それも東京だけではなく、地方からも!

偉人たちの知識や庶民の生活を保存し後世に伝えるツールとしての本は昔、富裕層しか読めない特別なものだったと言いますが、印刷技術の発達により爆発的に普及。現代ではむしろ、本の方がありふれている時代です。

つまり、出版社が販売する本の供給スピードに対して、我々読者の読書量が追いついていないんです。Webコンテンツが充実しているいま、なおさらその傾向にあると思います。

「本が売れない、人は本を読まなくなった、書店もどんどん潰れていく」と言いますが、むしろその隙間に、提供できる価値や何か別の新しいものが生まれるチャンスがあると感じます。

世界中の面白い本屋も回りまくりたい。