素晴らしい本と出会いました。
今さら紹介すると無知な自分を曝け出してるようなものですが、坂口安吾の「堕落論」です。
坂口安吾は太宰治らと共に、既成ジャンルに捉われず自らイデオロギーを作り「無頼派」と呼ばれました。
終戦直後に発表された作品で、人間が自らの本質に立ち返るには「墜ちるべき道を堕落しきること」と説き、戦後日本で多くの若者を支持を得ました。
ここで語られる「堕落」とは文字通りのものではなかったのです。
戦時中の人は運命を受け入れ本能のままに生きていた
本文では爆弾や焼夷弾に抗いながらも破壊行為に興奮していたとか、戦争中の東京は泥棒すらいなかったとか、戦争中の東京は嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさだけがあったと。
もうめちゃくちゃ書いてます。めちゃくちゃです。
我々現代人がメディアの印象から抱く戦争のイメージとは異なりますね。
では、安吾はなぜ戦争中の東京は理想郷と感じたのか。
それは、人が考えることを辞め、運命を受け入れた本能のままに生きる生物になっていたからだと書いてます。
人間は堕落する生き物であり、堕落し切ることもできない
そして戦争が終わった後の東京は、ダメな方の意味で堕落してしまった。
神のように崇められていた特攻兵は闇市で商売をし、亡くなった旦那を想いながら生きると誓った未亡人は、すぐに新たな夫を見つける。
しかし、それは悪いことでも倫理に反するものでもなんでもなく、人間は元々「堕落する」性質を持つ生き物なのであり、同時に「堕落し切ること」もできない生き物であると論じます。
人間が自らの本質に立ち返るための真の堕落とは、孤独の道なのです。
戦争を直に体験し、人間の本性を見抜いた坂口安吾の言葉は死後60年を経ても色あせることがありません。
ちなみに、こちらの100分de名著を読んで驚いたのが、この堕落論の影響を大きく受けたのが岡本太郎だったそうです。言われてみれば、通ずる部分多い…。