コーヒーなんて飲んでる場合じゃない。日本人はもっと暴力的になっていい

「グローバル化とか言うけど、実際何をしたらいいの?」

そんな漠然とした不安を感じながらこれまで生きてきました。

お隣中国・韓国の勢いは増す一方で、日本の国際競争力は明らかに落ちつつあります。「日本は窓際族を解雇できない。だからメイド・イン・ジャパンの値段を下げれないしプライドを捨て切れない」

では、世界に進出していくためには英語力が必要なのでは?

と思った2秒後、電車の中を眺めれば「その発音大丈夫?そんなんで外国行くと恥かくよ?」「英語喋れないとこれからマジでやばいよ?」と不安を掻き立てる広告ばかりでうんざりします。

日本の英会話の市場規模は3500億円。英会話スクールだけでなくオンライン英会話サービスが乱立する中で、「英語を教えない」英語講師の友人がいます。ジュリアン・イズラエルです。

イギリスと日本のハーフで、toB向けの英語講師や翻訳家、スーツブランドオーナーと幅広く活動しています。

僕とジュリアンの出会いは2017年11月に行われたイベントで、彼がモデレーターを務めた

「今年は多様な働き方を発信していく」と宣言したところ「リンクアップしようぜ」と声をかけてくれたことから取材に繋がりました。

取材場所は西日暮里のジュリアンの自宅。「ご飯食べてくでしょ?」とパスタを茹で始める。

ジュリアンはロンドンで生まれ育ち、日本には住み始めて合計で7年になります。実は日本のブラック企業で働いていた経験もあるという。

現在は英語講師として多くの日本企業とそこに在籍する社員たちと接する中で、彼がシンプルに感じてることは一体何か。

「国際競争力が〜日本人の英語力が〜」とよく言うけれど、実際に現場で携わるジュリアンに「今の若者に必要なこと」、そして「日本の労働環境について感じること」を聞いてみようと思います。

文化的に日本で働くことに馴染めない外国人労働者たち

——ジュリアンはロンドンで生まれ育ったんだよね?なぜ日本に来ようと思ったの?

ジュリアン:日本への移住はこれで3回目で、日本に対して未練があったんだ。1度目は12歳のときに群馬の中学校に行ったんだけど、文化的に馴染めず家を追い出された。2回目は24歳で北海道の企業に就職したとき。残業未払いや暴力とか普通にある超ブラック企業で、1年半で辞めた。

——え、ブラック企業で働いてたの?日本の残業文化とか絶対理解できないと思うんだけど。

ジュリアン:同僚にアメリカ人がいて、彼には「残業しろ」とか言わないんだよ。外国人に残業を強いれないこと知ってるから。実は俺日本名あるんだけど、その日本名で呼ばれてたから「先輩・後輩」という関係ができたんだろうね。

——人種差別じゃん、それ。

ジュリアン:それが普通だよ。

日本に在留する外国人の数は238万人と過去最高を記録。しかし、日本人でも馴染めない人が多い社会の中で文化的に馴染みの薄い彼らの苦労や困難も容易に想像できます。

日本の企業にとって外国人労働者を受け入れることも、外国人にとって日本の企業で働くことも簡単ではないそうです。ジュリアンも自身のブログ「外国人にとって日本で働くうえで難しそうなところは文化的な要素ばかり」と綴っています。

フランクに「何故日本の会社はこういう成り立ちか」を外国人にコミュニケーションをすることで、多くの誤解や混乱を免れるのではないでしょうか。

同じく、日本人社員に対して西洋文化のみならず、「あの国では。。」を伝えることで、よりバランス良い職場ができるのではないでしょうか。

——日本に来てどうやって英語を仕事にしていったの?

ジュリアン:「英語を教えるビジネス」はどん底に落ちた時の最後の切り札だったね。今やってるのはただ英語を教えるのではなく、西洋文化を入り混ぜたレッスン。例えば「七つの大罪を使って消費者行動を見てみましょう」とか、英語でレッスンやるけど英語は教えない。「文化」を英語で教えてるだけ。

——英語を学ぶことが「目的」になってる人いるけど、あくまで「ツール(手段)」だもんね。

ジュリアン:そうそう。英語を使ってITや半導体、サイバーセキュリティやAVのこと教えたり(笑)。「じゃあこのタバコを英語で俺に売ってみて?」とか、レッスンでは実用的なことはもちろん、自分の考えや将来どうなりたいの?ということを英語で話したり、説得したり、論理を覆したり。

そこらへんの英会話講師とは違うよ。他の英会話教室はインセンティブがないからやってない。

自分の人生はゲームで、生きるか死ぬか。リスクを取ってる人は成長する

——じゃあ、どうやって今みたいに日本で大企業のクライアントを見つけたの?

ジュリアン:「meet up」を使って「西洋文化を教えます!報酬はチップで!」というのをやってたね。最初2000円しか入らなかったけど、そこで作ったレッスンをいま大企業に売ってるよ。

あと6ヶ月英語の派遣ビジネスの会社に登録してて、いろんな企業に派遣してくれたんだ。報酬の半分を派遣会社に持ってかれるから、こういう短期契約労働者は家族を養えないのは最初から分かってた。だから契約更新のタイミングでお客さんに「直接契約してくれませんか?」と交渉したんだ。結局ほとんどの会社が契約してくれて、あの頃はドキドキして楽しかったよ。

ジュリアンが独自で作り上げたレッスンの資料

——分かる。俺も最初フリーランスとして独立した時、あらゆることが初めてだし不安だし、でもドキドキしててめちゃくちゃ楽しかった。

ジュリアン:自分の人生はゲームで、生きるか死ぬか、だよ。今もその感覚をすごい求めてて、リスキーなことしてる時に人は成長する。その感覚を大事にしたい。金というよりも遊びだね。滅びてもいいからただやりたいことやりたい。

会社辞めたらどうなるとか、女に告白したらどうなるとか、恐怖感じずやりたいことやったらいいじゃん。そういう意識があると次のレベルにいけるよ。るってぃはやりたいことやってるからリスペクトしてる。

——あざっす(笑)

「勝手に給料入ってくる日本はすごい。日本は窓際族が問題だと思う」

ジュリアン:るってぃはフリーランスになって良かったことなに?

——ん〜「束縛からの解放」とか色々あるけど、「考える力がついたこと」かなぁ。毎日会社行って適当に仕事しても給料入ってくる状態がダメだったね。全くエキサイティングじゃなかった。

ジュリアン:勝手に給料入ってくる日本は本当にすごい。俺が前の会社であんなに喧嘩してもクビにならなかったのはびっくりだもん(笑)。海外じゃありえない。日本は窓際族も問題だし、労働基準法が保護をしすぎてる。だから企業は足を引っ張る社員を切り離せない。

一方では短期労働者が急増しているけど、彼らは住宅ローンや賃貸契約を結ぶ信用がない。当然、家族も養える余裕がない階級が日本には密かにいる。さらには国際競争に中国、韓国、台湾が本格的に参入してきてから難しい状況に陥ったよ。若者達の期待感は前の世代と比べると、ずいぶんと下がったんじゃないのかな。 今の若者はフォロワーが欲しいとのことだけど、一つ前の世代は「家、車2台、子供二人」だったからね。

——逆に日本の労働環境の素晴らしいと思う部分はどこ?

ジュリアン:とにかく「手厚い」ことだね。正社員には社会保障や住宅手当、海外に赴任するときの危険手当とか。海外はより実力主義で、成績が悪かったらカットされるのは当たり前。日本で解雇はまずないけど、海外、特にアメリカだと社員はビクビクしながら働いてるように感じるね。日本は俺から見たら異常だよ。

——なるほど。ジュリアンは講師として色んな企業の日本の正社員を見ると思うけど、若い人を見てどう感じる?

ジュリアン:若い世代の方が危機感持ってるね。これは研修先の若い社員が言ってたんだけど、上層部は自分たちの給料しか考えてなくて、会社が10年20年続くことを考えてないと。自分たちだけが逃げきれればいいと思ってる。

——もう僕らの世代は会社が一生面倒見てくれるとか年金で暮らせるなんて全く思ってないよ。とにかくツールを駆使して収入源増やしたり、自分をプロデュースしていったり、ある意味必死だよ。

「コーヒーなんて飲んでる場合じゃないだろ。日本人はもっと暴力的になっていい」

——「若い世代の方が危機感持ってる」と言ったけど、「もっとこうしたらいいのに」とか思うことある?

ジュリアン:日本人はもっと暴力的になっていい。例えばデモとか。ロンドンは2011年に大きな暴動があって、フランスも文化的にそういうのがある。日本人は従順で、もう少し暴れてもいいと思ってる。

この前、「日本のカフェはダセェ」って話したじゃん。「みんなコーヒーとか飲んでる場合じゃないだろ」とか思うわけ。西洋の営業マンならみんな見てる映画「GLENGARRY GLEN ROSS(摩天楼を夢見て)」でも言ってるよ。

「コーヒーなんかよせ。契約を取ったら飲め。冗談だと思うか?俺は真剣だ。」

「コーヒーは売れてるやつしか飲んじゃいけない」。日本だとないよね、窓際族なんてクビだと思う。スタバでMac取り出して…それはクールでシークじゃない。本当に頑張ってるならそんなとこにいない。場所代高いしコーヒーまずいし。

——(ギクッ)

ジュリアン:日本文化を現した「菊と刀」ってあるけど、菊の方が日本の文化で、元々あった日本の武士道の精神が欠けてきてる。戦争に負けたってのもあるかもだけど、文句ばっか言ってないでやれよってね。まあしてると思うけど、俺には見えないね。みんな自分を守りすぎ。

って俺めっちゃ嫌なやつみたいになってんじゃん(笑)

——いやいや、Web上の記事はこれくらいハッキリ言わないと響かないし届かないからね。

最後に

ジュリアンのようにズバズバ意見を言う感覚は、私たち日本人が文化的に持ち合わせてないもの。遠回しの日本語表現が、仕事における微妙な関係を構築するのかもしれません。

「来週ファッションショーがあって超楽しみなんだ」「この前自分のスーツブランドのCMにAV女優の子に着てもらってさ〜」と終始楽しそうに語る。

本当に好きなことしかしてないんだろうな、と見てるこっちもワクワクしてきます。

日本が国際競争力をつけていくには、英語を学ぼうとかそういのじゃなくて、単純に「好きなことして自分の人生をゲームのように楽しんでる大人が増えることではないだろうか」と、取材を通して感じました。

それと、もっと暴力的に。耳が痛いけど、コーヒーなんか飲んでる場合じゃなく(笑)。悔いのないようもっともっと挑戦していこうと思いました。

最後に、ジュリアンの目標の1つが「佳子さまに英語と西洋文化を教えたい」らしい。可愛いかよ。

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ジュリアンのスーツブランド「LEGENDARY」

Text by るってぃ(@rutty07z)
Photo by takumi YANO 

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